2019年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月28日(月)
A会場

HTSコイル/保護 1A-a01-06 座長 淡路 智

講演会初日最初のセッション「HTSコイル/保護」では6件の報告があった。うち5件はREBCOコイルに関するもので、残り1件は船舶の脱磁用大型コイルに
関するものである。以下に詳細を示す。
JR東海の石川らは3B-a01及びa02の連報で、液体窒素冷却REBCOコイルの永久電流運転について報告した。最初の報告では、12 mm幅のフジクラ製GdBCO
線材を用いた1.09 m x 0.58 mのレーストラック型ダブルパンケーキコイルを作製し、永久電流スイッチ(PCS)と組み合わせて液体窒素浸漬冷却で永久電流運転
を行った結果について述べた。運転電流69 Aで最大経験磁場2 Tを発生し、2時間の電流減衰から0.2%/hの電流減衰率を得た。一日の運転を前提とすれば十分
な減衰率であるとのことである。続報では、ヒーターと共に無誘導巻きしたREBCOコイルを用いて作製したPCSについて報告した。2種類のPCSを作製したが、
それぞれ幅8 mmと6 mmの2種類の2 μm Ag保護層付きGdBCOテープを用いて作製したとのことである。オフ抵抗はいずれも5 Ωとし、容量は77 K, 0.6 Tで85 A
とした。実際に作製した2つのPCSのIcはそれぞれ133 Aと176 Aであり、先に示したように一日の運転に十分な永久電流特性が見られたとのことである。
東芝の岩井ら(3B-a03)は、コイル保護回路用の高温超伝導スイッチについて報告した。このスイッチは、コイル保護のために微少な抵抗を並列に繋ぐことことを
想定し、平常運転時に分流を防ぐために開発したとのことである。オン抵抗は160 nΩ、オフ抵抗は100 Kで11 Ωとなり、設計値の10 Ωを超える値となった。
テストの結果、40 Kから約3分で100 Kのオフ状態に、約80分でオン状態に切り替わるとのことである。本スイッチはコイル保護用のため、緊急遮断時にオン
動作する必要があり、オン状態への切り替え時間の短縮を今後検討するとのことである。
京大の羅ら(3B-a04)は、クエンチ時の高温超伝導コイル保護挙動について、短尺REBCO線を使って実験を行った結果を報告した。実験は、コイルインダクタンス
と保護抵抗から決まる電流減衰をプログラムすることで、短尺試料でも保護特性を評価できるというアイデアである。クエンチ動作に入った後にコイルが焼損
する限界はコイルIcに依存せず、検出電圧と時定数によると結論した。
東芝の宮崎ら(3B-a05)は、エポキシに導電性フィラーを混ぜた導電性樹脂を用いたREBCOコイル保護について報告した。これまで小コイルでの結果を報告して
きたが、今回は6積層パンケーキコイルの結果についてである。巻線間抵抗を発生磁場の時間的緩和から計算した結果、約12-40 Ωとなりパンケーキによって
ばらつきがあることが分かった。実験結果から、40 Kで277 A/mm2の電流密度の運転から熱暴走に入る直前に分流が起こり、保護動作に入ったことが確認
された。その後の試験によりコイルの劣化がないことも確認できた。フィラーの調整によって導電性を変化させることも可能とのことである。
艦磁研の廣田(3B-a06)は、船舶の脱磁用大型超伝導コイルの冷却について報告した。コストの安いMgB2を用いて100 kAの大電流超伝導ケーブルを液体水素
冷却で動作する大型コイルの設計について検討した。中心に銅を配した7本撚り線を4本用いた導体を想定し、導体外形は60 mmとした。MgB2撚り線は液体水素
による浸漬冷却とし、輻射シールドのための液体窒素冷却チャンネルも含めた構造とした。冷却計算の結果2 Kの冷媒温度上昇を許容すると、圧力損失は1 kPa
以下となり流量も30 L/minと十分とれるとした。短尺ケーブルを用いた試験としてREBCOケーブルと用いてヘリウムガス冷却を考えており、その冷却についての
計算結果も報告した。
REBCO及びBi2223線材の普及により、高温超伝導コイル化技術は着実に進展している印象がある。今回のJR東海が報告した、REBCOレーストラックコイルの
液体窒素温度永久電流運転は、77 KでBmax = 2 Tを発生させ、常伝導接続でも永久電流運転を可能とした結果は、発生磁場ととしも永久電流運転としても
衝撃的であった。今後の進展にも期待したい。


A15線材(1)・その他 1A-p01-07 座長 長村 光造

1A-p01:本セッション主題である1970年代の超伝導材料開発の草創期の状況と太刀川先生とその門下生の貢献について当事者の一人であられる戸叶一正氏
(NIMS)から報告があった。やはり日本における現在の超伝導材料の研究・開発の活況および質の高さは太刀川先生の存在があったからとの思いを出席者一同
が感じたのではないか。
1A-p02:熊倉浩明(物材機構)らからはその中でも高温でのみ安定なNb3Al並びにNb3(Al,Ge)線材を高エネルギービーム照射法で作製すると超電導特性の著しい
改良がみられることが報告された。
1A-p03:杉本昌弘(古河電工)らは同社の長い開発研究のなかでの発端となる太刀川先生からの指導と最近のNbロッド法高強度Nb3Sn線材の開発経緯について
報告した。
1A-p04:川嶋慎也(神戸製鋼)らは太刀川先生発明のブロンズ法Nb3Sn線材の量産化に成功し、NMRマグネット、ITER用コイルの開発に寄与しているが、最近
では分散Sn法Nb3Sn線材の開発を手掛けFCCマグネットの開発に関与している経緯について報告した。
1A-p05:菱沼良光(核融合研)らはNb3Sn線材の内部マトリックスの強化のためIn添加の効果について検討し、Inは母材の固溶硬化元素として、さらに超伝導
特性改善にも効果的であることを報告した。
1A-p06:伴野信哉(物材機構)らは太刀川先生のご提案を受けて2013年頃からご一緒に内部拡散法Nb3Sn線材におけるZn添加の効果を積極的にすすめ、ボイドの
形成が抑えられた緻密な線材の製造について報告した。
1A-p07:小黒英俊(東海大学)らは太刀川先生が立ち上げられた東海大学における超伝導材料研究室の現在の代表者として東海大での研究の歴史をまとめると
ともにその基盤に立つ現在の研究状況を報告した。


A15線材(2) 1A-p08-11 座長 杉本 昌弘

1A-p08:森田(上智大)は、内部スズ法Nb3Sn線材における、ZnおよびTiの添加効果の基礎研究として、Cu管や0.2または0.5 wt%Tiを添加したCu-Ti管と
Sn-20 wt%Znロッドを複合化した単芯線を試作した。Sn-20 wt%Zn合金のデンドライト組織は、冷間引抜加工後にZnがSn中に微細に分散する組織となった。
数十時間の400℃または550℃の熱処理によって、Sn中のZnはCuに拡散しCu-Zn相を形成した。
1A-p09:小黒(東海大)は、PIT法で製作した1at%Geを添加したNb3Sn単芯線材のGeの拡散挙動と引張歪下での超電導特性を調査した。サンプル線材の
クラックが影響し0.2%の引張歪で50%のIc に低下したが、小電流通電によるTcの歪依存性調査が有効であるとした。
1A-p10:水澤(東海大)は、PIT法で製作した4%Taまたは0.5%Hfを添加したNb3Sn単芯線材を試作し、臨界電流の引張歪依存性を低磁場下で測定した。
Ta添加試料は0.1%の残留歪を有し0.55%でIcが半分に低下したが、Hf添加試料は、クラックの影響により、0.2%の歪で2割程度のIcに低下した。
1A-p11:山田(上智大)は、リアクト&ワインド法コイルへの適用を目指したRHQT法Nb3Alテープ状線材を試作した。厚さ0.2 mmのテープ線材の臨界
電流は0.65%までの曲げ歪下において低下しなかった。このテープを矩形の銅コアの周囲に巻きつけた導体構造が提案され、その有効性が議論された。


5月28日(月)
B会場

送電ケーブル・回転機 1B-a01-06 座長 川畑 秋馬

1B-a01:渡部(住友電工)らは、超電導ケーブルシステムの長期運転に適した真空排気装置として、小型・軽量で機械駆動部がなく故障しにくいゲッター
ポンプを用いることを検討し、実際に実系統連系試験で用いた端末真空槽の真空引きに適用した結果、良好な排気特性が得られたことを示した。ゲッター
ポンプの再活性化の期間、長距離化した際の対応、使用される吸着剤とその効果に関する議論があった。
1B-a02:遠藤(東北大)らは、三相同一軸型高温超電導ケーブルを対象に、低熱伝導層の適用位置や厚さが1つの冷却ステーションで冷却可能ケーブル
長に及ぼす影響について報告した。低熱伝導層はケーブル導体部外側より内側に設ける方がケーブル最長距離が長くなること、低熱伝導層の厚さに対する
ケーブル最長距離には極大値が存在することなど、ケーブルの長距離化に有効な知見を示した。低熱伝導層の電気的特性や交流損失、接触熱抵抗に関する
質疑応答があった。
1B-a03:富田(鉄道総研)は、S-イノベの研究課題である「次世代鉄道システムを創る超伝導技術イノベーション」の10年間に亘る成果について報告した。
各種基礎実験や評価の後、構内試験線、営業線での走行車両への送電に成功し、超電導き電ケーブルが直流電気鉄道に適用できることを確認できたと
した。超電導ケーブルが鉄道へ逸早く導入されるよう、今後の研究開発の進展に期待したい。
1B-a04:寺尾(東大)らは、電動推進航空旅客機に用いる超電導モータとして、界磁超電導モータと全超電導モータの2種類を設計し、両者の電磁特性の比較
結果を報告した。2種類のモータともに、180座席程度の航空旅客機に必要な出力密度を満たす条件が得られたこと、より高い出力を持つモータの方がより
高い出力密度が得られることなどを示した。要求されている総出力やモータ出力と数の関係についての議論があった。
1B-a05:石田(東大)らは、航空機電動化のための推進用界磁超電導モータとして、全超電導モータに比べ、多極化による出力密度向上が期待できる界磁
超電導モータ(PSCM)について理論解析式を用いた電磁設計を行った。その結果、PSCM の出力密度及び効率が出力や回転数に伴って増加することや、
旅客機に必要な出力密度の達成が見込めることを示した。冷却方法や線間電圧に関する質疑応答があった。
1B-a06:門脇(豊田高専)らは、船舶推進用高温超電導回転機の小型化を図るために、電機子コイルへのDC通電により回転子表面に配置されたGd系バルク
を着磁し界磁極を形成する構造を採用した。小型試作コイルでの実証試験の結果をもとに、1 MW級ラジアルギャップ型高温超電導回転機の概念設計を行った
結果、既存機より体積当たりの出力が大きくなり、従来よりも小型化が期待できるとした。


バルク着磁・応用 1B-p01-06 座長 寺尾 悠

1B-p01: 芝浦工業大の岡らは、スパークプラズマ焼結によるMg-Bバルクをパルス着磁した際の、磁場捕捉現象について実験的な検証を行なった結果
を発表した。外部磁界1.2 Tを印加することで最大0.77 Tが捕捉出来たが、フラックスジャンプが大きく、外部磁界の印加が1.3 T以上では更に頻繁に
フラックスジャンプが発生することを示した。
1B-p02: 岩手大の平野らは、REBCOディスクバルク及び内径を変化させたリングバルクのパルス着時特性について応力解析シミュレーションを行った
結果を報告し、異なるバルク形状による応力挙動が、誘導電流の面積とバルク形状による応力集中の両面で決定されると考察した。
1B-p03: 足利大の横山らは、バルク超電導体をパルス着磁する際に、軟鉄ヨークを使用して捕捉磁界を向上させることを試み、バルク体より小さい場合
(S-yoke)、同じ場合(M-yoke)、大きい場合(L-yoke)の3種類で実験を行なった結果、S-yoke → M-yokeに変更することで捕捉磁界及び捕捉磁束量が
増加する一方、M-yokeとL-yokeでは違いが見られない等、ヨーク形状による依存性があることを示した。
1B-p04: 日本製鉄の森田らは、バルク超電導体を複数積層して使用し、補強部材として銅の割合を高めた場合のバルクマグネットについて15 Tの着磁
を行なった結果を報告し、クエンチ等を避けるために減磁速度を上手く工夫することで最終的に15 T着磁出来ることを示した。
1B-05: 岩手大の内藤らは、YBCOバルクに20 T級の磁界を補足させようと試みた結果を報告した。数百MPaのフープ応力に耐える設計をして着磁実験
を行なった結果、28 K冷却、外部磁界18 Tの場合に15.1 Tを示し、23 Kにて外部磁界20 T以上を印加した場合には熱的不安定性によりバルクが割れて
しまったが、これらの知見を活かして再度のチャレンジ結果が期待される。
1B-p06: 岩手大の難波らは、MgB2及びGdBCOと二種類のバルクを使用して構成されたバルク磁石レンズ(HTFML)の実証実験に関する発表を行なった。
外部磁界2.0 Tを与えた際には、GdBCOレンズ部分のシールド効果により収束磁界3.55 Tが得られることを示した。


Y系・MgB2・鉄系バルク 1B-p07-11 座長 横山 和哉

1B-p07:元木(青学大)らは水蒸気含有酸素雰囲気中でREBCO溶融凝固バルク体を作製する手法において、YBCOバルク体を通常の乾燥酸素雰囲気
中で作製したものと比較した結果、アニール時間が300時間から150時間に短縮できることを確認した。
1B-p08:箭内(青学大)らはGd123溶融凝固バルク体の上にY123焼結体を配置し、a及びc-growth領域の溶融凝固バルク体を作製した。バルク体の複数
の場所から小片を切り出して特性を評価した結果,概ね均質な特性を得られることを確認した。
1B-p09:前田(Kangwon国立大)らはMgB2多結晶体の作製過程において、炭素ドープを目的として炭化水素ガスを用いて試料を作製し、磁場下のJe
大きく向上することを確認した。
1B-p10:髙橋(岩手大)らはNMR応用を目的として、浸透法によりリング型のMgB2バルク体を作製し、FCによる着磁を行った。また、数値解析の結果は
実験結果とよい一致を示しており、解析によりバルクの厚みと磁場強度の関係などを明らかにした。
1B-p11:徳田(東京農工大)らは鉄系超伝導体において,ボールミルによる高エネルギー混合による欠陥導入について検討を行った結果、格子欠陥が
電子散乱を増やし、Hc2を向上できることを初めて明らかにした。


5月28日(月)
C会場

熱輸送特性 1C-a01-05 座長 岡村 哲至

「1C-a01:岩本(NIFS)」高出力・高繰り返しレーザー用として開発されているYb添加YAGセラミックス材料の、室温から極低温までの熱伝導率の測定に
ついて述べられた。構成の異なる測定方法から得られた結果は、熱伝導率の値や温度依存性に大きな差が見られた。材料を固定するところの熱抵抗などの
考慮が重要であることが再認識された。
「1C-a02:武田(神戸大)」液体水素の減圧速度、減圧時間、蒸発量の関係を明らかにするための予備研究である。加圧窒素に関する実験結果が示され、
蒸発量の減圧速度依存性について述べられた。
「1C-a03:石見(京大)」液体水素冷却超電導機器の設計に資するための研究である。鉛直加熱円管内を流れる飽和液体水素について、圧力と流量をそれぞれ
変化させた場合のクオリティや熱伝達率などについて測定された結果とその考察について示された。
「1C-a04:塩津(京大)」前の発表の実験結果を記述する数値解析について述べられた。DNB熱流束(核沸騰から膜沸騰へ遷移する熱流束)、環状膜沸騰、
気液二相流および蒸気単相流などに関してそれぞれ、実験式やその修正式を用いて、実験結果をほぼ記述できることが示された。
「1C-a05:長元(鹿児島大)」伝導冷却型高温超伝導パルスコイルの冷却に自励式ヒートパイプを適用することを検討している。自励式ヒートパイプを4枚、
コイル内に設置した場合を模擬した実験を行い、それぞれのヒートパイプが積極的な制御なしに動作することが確認された。


MLI・宇宙低温 1C-p01-05 座長 村上 正秀

1C-p01 大森(帝京大):小型円筒型タンクを用いたMLI性能評価試験においては、タンク内液体窒素残量が減少した際に見かけ上の蒸発量が減少する。
タンク外壁を銅板で覆ってタンクの等温性を改善したところこれを回避できた。
1C-p02 大森(帝京大):MLIの水平方向積層試験における、積層厚さと無次元層間接触圧の関係を求める試みの報告。この関係が求まれば、測定の困難
な無次元層間接触圧が積層厚さから求められるはずであるが、結果にはまだ要検討事項を残す。
1C-p03 篠崎(JAXA):次世代赤外線天文衛星SPICA搭載冷凍機システムの紹介。多数の機械式冷却機と50mK断熱消磁冷凍機を組み合わせた冷却系全体
システムの概要、想定される技術的問題、それへの解決法、等が説明された。併せて、本機のシステム成立要件の要の一つであるV-Groove放射冷却機に
関する説明も行われた。
1C-p04 福岡(東大):SPICA搭載ジュールトムソン冷却機用直線型熱交換機の性能評価に関する報告。SPICAの構造的特徴に由来する、従来からのらせん
型対向流熱交換器が採用できないことからとられる措置であるが、試験機は性能要求を満たすことが実験的に確認された。
1C-p05 島崎(産総研):3Heジュールトムソン冷却機回路内を循環するガスの不純物分析結果の報告。冷却機作動中に熱交の閉塞が起こったことに対し、
その原因追及のためガスの質量分析が行われた。結果から、相当量の水素発生が認められ、その発生源追求とそれへの対策が考察されている。


冷凍機・超低温 1C-p06-10 座長 島崎 毅

1C-p06: 朱(同済大)は、イナータンスチューブパルス管冷凍機でキロワット級の冷却能力を実現するために、関連しあう複数の設計パラメータの影響をシミュ
レーションにより解析した。適切なイナータンスチューブの長さは条件を変えてもさほど変化しないことが示された。高い目標COP値の実現見通しについて質問
があった。
1C-p07: 五明(三菱電機)らは、大型超電導コイル冷却用の液体ヘリウムサーモサイフォンループ試験装置を試作した。熱抵抗の評価の重要性を指摘した。
質疑応答では冷却に必要な液体ヘリウム量を浸漬冷却に比べ一桁以上削減できる可能性への言及もあり、聴衆の期待を集めた。
1C-p08: 川崎(KEK)らは、超流動ヘリウムを利用して生成する超冷中性子の特徴、用途、生成装置設計のための要点を報告した。超流動乱流下での、特に
1 K以下での熱伝達に関わる実験データの取得が不可欠とのことであった。質疑応答において、超流動乱流と古典的な流体力学における乱流との違いについて
指摘があった。
1C-p09: 岡村(KEK)らは、超冷中性子源設計のために乱流シミュレーションを活用した検討を行った。必要な熱伝達効率を確保しつつ圧力損失は許容以下に
抑える熱交換器の形状を求めた。今後は試作を進めるとのことであった。
1C-p10: 中川(産総研)らは、銀粉末焼結体を用いた超低温用熱交換器材の特性を、窒素ガス吸着法、レーザーフラッシュ法などで評価した。高い熱交換効率
の実現には、適切な粒径の選択が不可欠であることを示した。具体的なクライオスタットへの応用も議論になった。




5月28日(月)
P会場 ポスターセッションI

冷却システム・小型冷凍機 1P-p01-04 座長 山口 作太郎

1P-p01 R.Wanison(総研大)ら :Heat pipeを低温で使うアイデアは当方が知る限り1990年代から今までに何度か独立に報告されている。この種の機器が
必要な場合は色々思い当たるが、それらと何が異なり、性能的に最終的に向上したかを最終的には学位論文としてまとめるに当たっては必要と思われるが、
今回の発表でも述べて欲しかった。また、応用を考えるとリジッドなパイプではなくて、ある程度曲がることができると、色々応用が始まると思った。
1P-p02 増山(大島商船高専)ら:GM冷凍機は広く利用されているが、話を聞いてみるとまだまだ特性を決めるための検討項目は多くあり、やるべき事柄
が多いと感じた。その意味では特性が線形ではなくて不思議な振る舞いも出てくるのはある意味で当然と思われた。逆言えば、まだ特性が他の冷凍機も
含めてかなり改善の余地があるかのようにも思われた。何が今までに調べられていて、調べられていないかを整理することを体系的にまとめることが
最初に必要であろう。
1P-p03 小林(愛媛大)ら:GM冷凍機は4 Kまでの冷却で広く利用されていて、そこで用いる磁性蓄冷材の材料開発に関連した発表であった。p02の発表の
コメントに書いたように、まだやり残したことがかなりあるように感じた。その意味でこの発表は蓄冷材の開発に関連しているが、実際の冷凍機で使われて
何が良かったかになるのであろう。その意味で、構造や機構を検討している研究者と材料関係の研究者の交流が行われることが、この発表を聞いて一つの
体系的な研究開発につながると思われた。
1P-p04 久志野(久留米大)ら:1 K以下に冷却するためにGM冷凍機とGGG(ガリウム・ガドリウム・ガーネット)の断熱消磁冷凍機及び熱スイッチを組み
合わせた冷凍システムの発表であった。1 K以下の研究は物理学の基礎に関連する研究項目が複数あるが、それぞれ目的に合わせて色々なシステムが開発
されていている。その意味で重要な発表であるが、一度学会で1 K以下の温度に到達する冷凍機の特集を組んではどうか?


HTS線材特性(1) 1P-p05-07 座長 小川 純

HTS線材特性(1)では3件の発表があった。
1P-p05:原本(鹿児島大)らは、左右対称のマグネットを用い交流横磁界を印加したときの高温超電導線の磁化損失を従来法より高精度に評価する方法の
提案を行った。左右対称のマグネットの片側に測定サンプルとピックアップコイル、片側の対称位置にキャンセルコイルを置くことにより、従来のキャンセル
コイルのように非対称な位置に配置するより誘導電圧の正確なキャンセルを実施することが可能であることを示した。
1P-p06:武藤(フジクラ)らは、超電導マグネットにおいて励消磁の時に繰り返しフープ力が作用することから、液体窒素中で厚さ50 μmのHastelloy基板の
REBCO線の長手方向の繰り返し負荷試験を実施した。試料のS-N曲線を示し、元の強度に対し約80%の強度で106回の引張負荷に耐えられることを示した。
1P-p07:畑野(東海大)らは、REBCO線に曲げひずみを加えた状態の臨界電流値の磁界の大きさと角度の影響を測定した。磁界の印加角度が0度付近では
0.2%の曲げひずみを与えた試料、90度付近では0%の試料が最も臨界電流値が高いことを示し、磁界印加角度によって臨界電流値とひずみの関係が変化
することが報告された。


HTS線材特性(2) 1P-p08-13 座長 井上 昌睦

1P-p08:吉田(名大)らは、REBCO線材の低コスト化に向けた研究として、人工ピン導入による高Je化と成膜の高速化に取り組んでいる。今回、臨界電流と
線材送り速度の積を、製造係数としてプロセス比較する手法を提案していた。
1P-p09:吉田(名大)らは、Gd2O3を添加したYBCO薄膜の磁場中Jc異方性改善について報告した。Gd2O3の修飾面積比を15%としたときが、Teの低下減少率及び
異方性の改善効果の点から有効な結果が得られていた。また、成膜時のレーザー繰り返し周波数を20 Hzから5 Hzに下げることで、ナノパーティクルが小さく、
高密度になり、Jeの角度依存性における最小Jeが向上することを報告した。
1P-p10:太田(京大)らは、NiめっきCuテープ上に導電性を有するバッファ層を介してYBCOをエピタキシャル成長させる研究を進めている。今回、La-STOを
導電性バッファ層として用いる取り組みについて報告した。今回作製したLa-STO膜はいずれも2軸配向していいたものの、NiのYBCO膜への拡散を示唆する
Ni層の空隙が存在し、Jeは従来のNb-STOバッファ層に比べて著しく低かった。今後は、La-STOの膜厚を厚くすることを検討しているとのことである。
1P-p11:吉岡(京大)らは、REBCO線材同士を接続するための方法として、金属基板部分にAgを用いる手法について検討を進めている。超伝導層から酸素を
一旦抜き、Ag層を介しての酸素導入を試みたところ、十分に早い速度で酸素が拡散していることが確認されたとのことである。
1P-p12:山本(東北大)らは、人工ピンの導入部位と自己磁場下におけるJeの関係について調査した結果を報告した。3 MeVのプロトン化水素分子を、線材の
幅方向に対する外側と内側、そして全面にわたり照射した際の陽子線照射量と自己磁場Jcの相関について報告したが、Teの変化や面内のJeJe)分布に
ついてはまだ調べられていないことから、今後の調査が待たれる。
1P-p13:土屋(名大)らは、SmBCO薄膜の磁化緩和特性の異方性について報告した。磁化緩和特性から規格化磁化緩和率を求め、その温度、磁場依存性を、
磁場印加角度を変えて調べている。高温かつ磁場中ほど磁場印加角度依存性が大きいことが示されており、これは、Jeと同様の振る舞いとなっている。


超電導応用 1P-p14-18 座長 七戸 希

1P-p14 鎌田(明治大):電磁力平衡ヘリカルコイルに用いるREBCO線材について、ヘリカル形状で生じる複合曲げひずみとビリアル定理から算出した線材に
かかる最大発生応力により、印加可能な最大巻線張力を求め、複合曲げ装置で実験検証し、想定しているひずみが線材の可逆限界を超えないことを示した。
1P-p15 大牟礼(早大):REBCO線材を用いた無絶縁コイルのSMESへの応用を指向して、同じ起磁力を持つ1枚巻きのコイルと4枚バンドルのコイルを解析に
より比較検討し、後者のほうがインダクタンスの低減効果により、充放電時の応答性が向上して損失が小さくなり、貯蔵効率も向上したことを示した。
1P-p16 張(東大):直流超電導ケーブルについて、5本の超電導ケーブルを独立に冷却する形で5本束ねた構造と、5本の超電導ケーブルをヘリカル形状に
撚って束ね、その全体を冷却する構造にて解析し、後者のほうが温度上昇は大きくなるもののコンパクトになることを示した。また、ケーブルを曲げた箇所にて
温度が高くなることも示した。
1P-p17 加藤(東大:)全超電導回転機の希薄ガスを用いた回転子冷却について、解析により、回転数を大きくする、回転半径やエアギャップ長を大きくする、
または希薄ガスとして用いるヘリウムガスの圧力を大きくすることが冷却を促進させることを示した。
1P-p18 清水(東大):全超電導同期機における交流損失について、2次元および3次元モデルで解析したところ、2次元モデルでは巻線端部の損失が大きいと
見積もられるが、3次元モデルの端部での磁束密度にて2次元モデルを補正すると、両モデルの差は10%程度に減少することを示した。


フライホイール 1P-p19-22 座長 内藤 智之

本セッションでは同一グループによる4件の発表があった。
1P-p19:山下(鉄道総研)では超伝導磁気軸受(SMB)の信頼性・耐久性評価装置の開発状況について報告された。
1P-p20:小方(鉄道総研)では150回励消磁後のSMBの浮上力に変化が無いこと及び磁束クリープによる浮上力低下は1年で2%程度であることが示された。
1P-p21:宮崎(鉄道総研)では断熱荷重支持材に貼りつけた歪ゲージ出力からSMBの浮上力を評価出来ることが示された。また、前報の一連の評価試験後
の支持材に劣化が無いことが引張試験により確認された。
1P-p22:嶋崎(リガク)は想定されるフライホイールの運転条件に対する磁性流体シールの耐性試験についての報告であった。急加減速試験(0→3000 rpm)や
一定の範囲内で回転数を変化させるサイクル試験(2100~3600 rpm)ではシール特性に劣化が生じないことが示された。




5月29日(火)
A会場

HTS線材製造・加工 2A-a01-05 座長 堀井 滋

2A-a01 下山(青学大)らは、c軸配向組織をもつ123相および2223相多結晶材のJc向上に向けた取り組みについて報告した。c軸配向123多結晶の場合、70-80%程度
の緻密化で、Jc向上が認められたが、これ以上の緻密化を実現するにはより高温の熱処理を要するが、粒界に液相焼結に伴う絶縁性不純物が生成し逆にJcは低下する。
これを解決する方法がCaドープである。Caドープにより、包晶温度が高くなるとのことで、液相が生成しにくくなる。また、2223の場合、磁場配向+GPaレベルの高圧
プレス+焼結により、ほぼ100%の相対密度をもつ試料において、40 kA/cm2@20 Kの自己磁場Jcを得た。
2A-a02 藤田(フジクラ)らは、ハステロイ基材の厚みを75 μmから50 μmに低下させた人工ピンニングセンター導入EuBCO線材の機械特性について述べた。ハステロイ
基材の厚みの低下に対して、引っ張り強度が若干低下したものの、剥離特性の向上などが認められた。薄い基材の採用によりJeの向上が見込めるが、機械特性に関して
も特に深刻な問題はないと見受けられた。
2A-a03 権藤(青学大)らは、フッ素フリーMOD-Y123膜の水蒸気熱処理およびこの還元後処理が積層欠陥に与える影響について報告した。Y123に対して水蒸気熱処理
を行うと、124相由来の積層欠陥が生じる。この熱処理を70時間程度行うと、123相のc軸反射から124相のc軸反射が支配的となると述べた。水蒸気熱処理は124相の生成
を促進する。一方、還元後処理は積層欠陥を解消する効果を持つが、Jcにおいても磁場下特性を制御できることを示した。
2A-a04 金(室蘭工大)ら(当日の登壇者は川村氏)は、線材を折り曲げることなく応力集中によるへき開のみでREBCOスプリット線材の製作を試みた。30分割を応力集中
で行い、間隔が50-250 μmをもつ平滑なスプリット線材を得た。このスプリット線材の磁化ヒステリシスを4.2 Kで測定したところ、残留磁化が分割前の27分の1となった。
30分の1に近いほぼ期待通りの遮蔽電流が得られ、応力集中法の有効性が示された。
2A-a05 町(産総研)らは、超伝導モーター用の直流磁場シールドについて基礎的な検討を行った。本発表では、アルミボビンに10 mm幅GdBCO線材を巻いたものを最大
11層まで用意し、側面方向から磁場印加した際の遮蔽率を測定した。結果的には、Hc1相当の20 mTまでの磁場に対しては80%程度の遮蔽効果を示したが、ターゲットと
なる0.5 Tでは10%程度の遮蔽率となった。磁場印加方向とボビンの中心軸が平行のとき遮蔽効果が高まる報告があり、今後はこの配置での検証を行うとのことである。


加速器(2) 2A-p01-05 座長 尾花 哲浩

本セッションでは、核医学治療用高温超電導スケルトン・サイクロトロン(HTS-SC)の開発に関して、4件の発表があった。
「2A-p01:石山(早稲田大)」 HTS-SC用マルチコイルシステムにおける開発課題と対応策について報告があった。HTS-SCの成立性と有効性を実証する
ために、HTS-SCの小型モデルの開発を進めている。
「2A-p02:野口(北海道大)」 HTS-SCの小型モデル用コイル設計について報告があった。現状のコイル設計では、目標とする磁場分布(等時性磁場)に
対して数%の差が生じている。そこで、誤差磁場の対策として補正コイルの使用を検討している。
「2A-p03:植田(岡山大)」 HTS-SCの小型モデル用コイルに生じる遮蔽電流解析について報告があった。コイルの通電パターンによる磁場精度への影響
が評価された。
「2A-p04:粟津(岡山大)」 HTS-SCの小型モデル用コイルの機械特性解析について報告があった。コイルに生じる電磁応力及び変位について評価が行わ
れた。今後、コイルの冷却時に生じる熱応力解析が行われる予定である。
(2A-p05 講演キャンセル)

5月29日(火)
B会場

超電導応用における循環冷却システム 2B-a01-04 座長 柁川 一弘

2018年度に発足した「超電導応用における循環冷却システム調査研究会」における2年目の活動の一環として、特定のテーマを集中的に議論できる企画
テーマセッションにて計4件が講演された。
2B-a01:渡部(住友電工)は、長尺の高温超電導ケーブルを対象とする冷却システムの概要、並びに東京電力旭変電所で2012年に実施された超電導
ケーブル実系統送電試験を題材とする液体窒素循環冷却システムの基本構成、要求される仕様、課題等について取りまとめた内容を報告した。
2B-a02:仲村(前川製作所)は、高温超電導ケーブル実証プロジェクトで開発したターボブレイトン冷凍機について説明した。既に商品化していたターボ式
のブレイトンサイクルを用いた空気冷凍システムを元に、冷媒にネオンガスを用いたターボブレイトン冷凍機を設計・製作し、当初の目標を概ね達成した。
2B-a03:平井(大陽日酸)らは、商品化したターボブレイトン冷凍機の概要と液体窒素循環試験設備を使用した性能評価試験結果について報告した。
液体窒素循環条件下において冷凍能力とCOPの商品仕様を十分満たすとともに、20回のロードサイクル試験により冷凍機制御の安定性を実証した。
2B-a04:山中(大陽日酸)らは、小型冷凍機を利用した無冷媒冷却システムとして、GM冷凍機で冷却したヘリウムガスを断熱配管により遠隔部に移送し
被冷却物を冷却する循環冷却システムを紹介した。この技術を利用したものとして、TES冷却用の分離型希釈冷凍機やNMRプローブ冷却装置等がある。


ピンニング・新超電導 2B-p01-04 座長 筑本 知子

本セッションではピンニングについて4件、新超電導探索に関して1件の講演があった。
2B−p01:山崎(産総研)は高濃度ナノ粒子ピンがあるREBCO薄膜においてH // c付近で磁界角度に依存しないJc特性がみられることについて、理論的
考察を行い高濃度ナノ粒子ピンを含む薄膜ではREBCOの異方性に起因する磁束線の曲がりが生じることがフラットなJcの磁界角度依存性の原因で
あると言及した。
2B−p02:山崎(産総研)はc軸相関ナノロッドピンのあるREBCO薄膜において、Jcの磁界角度依存性においてH // cでナノロッドに起因するシャープな
ピークがみえているのに、低温ではピークがなくなることについて低温ではc軸相関ナノロッドピンは効いているもののイントリンジックピンの影響が
大きくなるため、H // cピークがみえなくなるという新解釈を提案した。
2B−p03:木内(九工大)らはPLD薄膜でターゲット交換法によりBHO nano-rodのサイズを変化させた試料についてJcBの温度依存性と磁化緩和測定
から求めた見かけのピンポテンシャルU0*の比較をおこなった。膜厚が150 nm程度と薄いためか、それほどナノロッドの長さの影響はみえていない。
2B−p04:松下(九工大)らは超伝導体の対破壊電流密度についてGL理論を用いた考察を行った結果について報告した。同じような考察はTinkhamが
行っているが、Tinkhamの考察においては、超電導電子の速度一定条件のもとでGLエネルギー密度を最小化したことに問題があることを指摘し、松下ら
は電流密度一定条件のもとでGLエネルギー密度を最小化することにより正しい対破壊電流密度が得られるとした。その結果、Tinkhamの理論値の2倍の
値となることを報告した。
2B−p05:高野(NIMS)らはマテリアルズ・インフォーマティクスを利用した新超伝導体の発見について報告した。具体的にはNIMSの有する無機化合物
データベースから三元系化合物を抽出し、そこからさらにバンド構造でナローギャップ半導体でかつバンド幅が平坦でフェルミ準位近傍の状態密度が
高く、圧力でギャップ幅がせばまるという条件で候補を絞り込んだ。そうして抽出した候補を実際に合成、高圧をかけることによりSnBi2Se4、PbBi2Tc4
AgIn5Se8の3種類の圧力誘起超電導体の発見することができたことを報告した。




5月29日(火)
C会場

電力応用 2C-a01-05 座長 野口 聡

2C-a01:結城(東北大)らは、抵抗型超伝導限流器に用いられるREBCO線材の超伝導復帰特性について報告した。膜沸騰の抑制が可能となるインジウム
接合条件を調査し、5 mm間隔でインジウムを接合することが最も冷却効果が高いことが報告された。
2C-a02:坂本(京大)らは、パンケーキコイルを用いた磁気遮蔽型超伝導限流器を試作し、その特性について報告した。この超伝導限流器は、ある程度の
大きさの電流に対しては、高インピーダンスになることで限流作用(L型)をするが、より大きな電流に対しては、抵抗成分による限流作用も加わる
(R+L型)ことで、より効果的な限流ができることが報告された。
2C-a03:柳井(京大)らは、抵抗型超伝導限流器に用いられるREBCO線材の超伝導復帰特性向上について報告した。超伝導線材表面状態や圧力の大きさ
による超伝導復帰特性を調査し、0.4 MPa以上の圧力が超伝導復帰特性を改善させることが報告された。
2C-a04:小田部(九工大)らは、差分進化法を用いた超伝導変圧器の機器定数の推定法について報告した。遺伝的アルゴリズムを用いるよりも、差分進化法
の方が良い推定結果が得られる。
2C-a05:藤田(山梨大)らは、超伝導バルクを用いた無線電力伝送について報告した。線幅やギャップがQ値に与える影響を調査し、線幅1.5 mm、
ギャップ 1.5 mmの時に高Q値が得られることが報告された。


MgB2導体/解析・特性評価(2) 2C-p01-05 座長 田中 秀樹

2C-p01 槇田(KEK)らは、MgB2ラザフォードケーブルで作製したダブルパンケーキコイルに関して、3コイル連結しての励磁試験結果を報告した。
質疑では、液体ヘリウム中通電600 Aはロードラインとしては十分余裕があること、フラックスジャンプ起因の信号は観測されていないこと、素線の
Icばらつきは10~20%程度であることが回答された。
2C-p02 駒込(前川)らは、2C-p01で報告されたコイルに対するカロリメトリック法による交流損失評価方法に関し、フローメータで測定するヘリウム
ガス流量が安定するまでに液量が不足することから、時間に対するガス流量の傾きと、ヒータによる校正を用いたことを示した。
2C-p03 谷貝(上智大)らは、2C-p01で報告されたコイルに関し、MgB2素線をラザフォードケーブル化する際のケーブル劣化メカニズムをシミュレー
ション結果を用いて報告し、熱処理前のMgB2前駆体粉を包むNbシースでは圧縮変形によりクラックを起点とするき裂進展が発生することを示した。
2C-p04 曽我部(京大)らは、スーパーフェリックマグネットを構成する高温超電導コイル(偏向マグネット、偏向+収束/発散マグネット)の交流損失
について、コイルエンド部における損失が支配的であることを示した。ビーム取り出し位置のマグネットなど合わせ、全体での損失目標は8 Wとのこと。
2C-p05 藤原(鹿児島大)らは、高温超電導機器におけるエネルギーフロー測定を用いた超電導特性低下診断法について、磁界検出用ピックアップ
コイルの位置調整によって測定精度が高まることを示した。質疑では、本測定方法は温度変化によるノイズに埋もれずに、超電導特性の低下を検出
可能との回答があった。




5月29日(火)
P会場 ポスターセッションII

断熱配管 2P-p01-03 座長 大森 隆夫

「2P-p01:山口(中部大)」石狩超電導直流ケーブルの断熱に用いられる真空多層断熱材(MLI)のスペーサ等の構成材料を最適化するために77 K
小型冷凍機を用いた断熱性能試験について報告があった。実験ではMLIに用いられるスペーサを1枚、あるいは2枚を冷凍機のコールドヘッド上に
置き、さらにその上にアルミ蒸着ポリエステルフィルムを貼ったアルミ板あるいはSUS板を置きその温度を測定した。アルミ板などを置くことにより、
MLIに働く層間接触圧を自重の10~45倍程度の範囲で変化させた試験を行うことができた。アルミ板などの温度が低い場合には断熱性能が悪く
なることがわかる。
「2P-p02:渡邊(中部大)」超伝導送電用低温配管の中に収納されたケーブル管とリターン管の単位長さ当たりの熱負荷が真空境界である外管の
温度変化によってどのように変わるかを実験的に求めた。前回の試験では石狩回線と実験室の配管を用い、外管温度範囲が-3℃~30℃のデータ
を取得した。今回は試験配管のみで行い、外管温度範囲は30℃~52℃までのデータを取得し、外管温度制御に温度調節器を用いたのでバラツキの
少ないデータが取得できた。また、配管サポートからの熱侵入量はANSYSを用いて計算したが、配管全体の熱負荷に対して無視できない大きさで
あることがわかった。
「2P-p03:イワノフ(中部大)」高温超伝導線を用いた直流送電ケーブルの端末クライオスタットを最適化し小型化するために、ペルティエ素子を組み
込んだ電流リード(PLCs)による熱侵入量の抑制、ターミナルフランジの寸法抑制法などについて検討した。現状ではロシアの端末クライオスタットの
長さはこちらの1/3程度であるようだ。PLCsは送電ケーブル内のHTSテープ間の電流配分を均一化することに役立つ。


MgB2(1) 2P-p04-07 座長 児玉 一宗

2P-p04:中西(農工大)らは、原料MgB2粉末の合成温度とボールミル粉砕時間が、ex situ法MgB2バルク作製時の焼結温度に与える影響について報告
した。また、湿式粉砕を採用しているため、溶媒由来の炭素が残留し、最終的にMgB2のホウ素サイトを置換することを明らかにした。
2P-05:藤井(NIMS)らは、ex situ法MgB2線材にAlシースを適用して軽量化を図ろうとしている。MgB2粉末の焼結温度をAlの融点より低温化させる
ため、低融点金属(In, Sn, Bi)の添加を検討した。その結果、Sn添加が焼結温度を低下させるのに最も有効であることを明らかにした。
2P-06:Choi(Sam Dong)らは、2017年に長尺多芯MgB2線材の製造に成功している。今回は様々な芯数(6, 7, 18)、MgB2比率(10-16%)、銅比率
(30-49%)で多芯線材を作製し、いずれの断面構成であってもほぼ等しいJc特性が得られることを報告した。
2P-07:小島(東海大)らは、液体水素液面計用にステンレスシース単芯in situ法MgB2線材を開発している。今回は、ステンレスに対して900℃の事前
焼鈍と中間焼鈍を行い、加工硬化による伸線時の破断防止を図った。目標とする線径0.1 mmまで加工できたが、中間焼鈍時にMgB2が生成し、それが
後伸線工程で壊れ、十分な電流特性は得られなかった。


超電導接合/低抵抗接合(1) 2P-p08-12 座長 寺西 亮BR>
2P-p08:舩木(島根大)らは、REBCO-REBCO接合(GdBCO-GdBCO)について、2つの線材間にEuBCO圧粉体を挟んでKOH蒸気中にて525℃で低温接合を
行う際のKOH供給時間の影響を調査し、供給を2 h以上行った場合に接合部にEu247相が生成することや同相の生成は接合体のTcを低下させる原因となる
可能性を示した。
2P-p09:井上(NIMS)らは、LTS-HTS接合(NbTi-Bi2223)について、Bi-Pb-Snはんだ成分が接合体の通電特性に及ぼす影響を調査し、Pb濃度が低くなると
接合抵抗が小さくなる傾向を示し、Pb、Sn、Biの各濃度がそれぞれ20%、30%、50%とすることで低い抵抗値を得た。
2P-p10:呉(九大)らは、LTS-HTS接合(NbTi-Bi2223)について、磁気顕微鏡法にて接合体の低電界領域の超電導電流可視化を行い、特性制限部がBi2223
フィラメント付近であることを明らかとした。本解析による電流分布の知見は材料作製側に今後の改善点を明示するものであり、プロセス適正化に有用である。
2P-p11:社本(原子力機構)らは、超電導線材の低抵抗接続用はんだ材の開発を目的に、カーボンナノチューブ(CNT)・Pb系はんだ複合材料を合成した。CNT
のはんだとの濡れ性は化学処理(硝酸水溶液中での超音波処理)によって向上でき、超音波はんだごてを利用することで両者の複合材料が得られることを報告
した。
2P-p12:佐藤(東北大)らは、核融合炉におけるコイルセグメント脱着方式用のREBCO導体エッジジョイントについて、銅ジャケットの厚さと接合抵抗の相関を
調査した。有限要素法による数値解析から銅の厚さを増大させることで接合抵抗が低減できること、インジウムを介した接合体を用いた実験から接触抵抗の
低減と接合長の増大で同抵抗を低減できることを示し、マグネットに応じて導体構造を設計する際の指針を明らかにした。


Y系バルク 2P-p13 座長 岡 徹雄

本セッションではREBCO系(RE=Dy, Er)酸化物超伝導体粉末の3次元結晶配向を目的に1件のポスター発表があった。
2P-p013:堀井(京都先端科学大・京大)らは、REBCOの結晶粒間の弱結合から求められる2軸結晶配向をテーマに、磁気異方性が高いDy123系とEr123系
を対象にその粉末を用いた実際の磁場配向を実施した。2軸配向のための回転磁場に今回は永久磁石の異極を直線に配列してリニア駆動型の回転変調磁場
を形成し、これを直線往復運動することでREBCO粉末が2軸配向できることを述べた。


磁気分離(1) 2P-p14-15 座長 横山 和哉

2P-p14:和久井(宇都宮大)らは磁化活性汚泥法による食品工場の排水処理について検討しており、5Lのベンチスケール実験装置で実験を行った結果、
半年間継続的に良好な処理ができることを確認した。
2P-p15:野村(宇都宮大)らは磁化メタン発酵法による濃厚プロセス排水の処理について検討し、実際の排水を処理した結果、直接下水道に排水できる
基準を達成した。これにより、省スペース、省コスト化の可能性を明らかにした。


加速器(1)・核融合(1) 2P-p16-18 座長 王 旭東

2P-p16 尾花(NIFS):重粒子線回転ガントリーのためのアクティブシールド型超伝導マグネットの設定について報告された。重粒子線用回転ガントリー
には、数トン程の鉄ヨークを用いた超伝導マグネットが使用されているため、回転制御が困難である。本発表はビーム輸送用のダイポールコイルの
外周に鉄を使用しないアクティブシールドコイルを配置して、漏れ磁場を遮蔽することを提案している。シールドコイルは径0.9 mmのNbTi線を使用して
巻線することを想定し、ダイポールコイルの内径9 cmに対して、シールドコイルの内径を25,30,35 cmとして、コイル断面の2次元解析により、コイル形状
と磁場分布の関係を評価された。コイル電流値は、マグネット中心の磁束密度が2.37 Tで、半径0.5 mでの漏れ磁場が5.0×10-4 T 以下になるように
調整された。シールドコイルの半径が減少するにつれて、電流値が増大し、コイルの磁束密度が増加するという結果である。コイルエンドの磁場評価は
どうなるのかという質問に対しては、今後の課題として研究を進めるとした。また一部鉄を使う検討はあるのかに対しては、コイルエンド含めて少量必要
になる可能性があるという見解である。


解析・特性評価 2P-p19-26 座長 花井 哲

2P-p19:濱中(早大)らは、無絶縁REBCOコイルにおいて、1/8、1/2、1周分の導体に劣化が発生した場合のコイル挙動に関する解析結果を報告した。
解析では、どの劣化長においても、常伝導転移部分を避けるように1ターンにわたって電流が転流することが示され、無絶縁コイルにおいて劣化部が
発生しても局所的な発熱がなく、コイルが通電可能であることを示した。
2P-p20:吉原(早大)らは、2ダブルパンケーキ積層の無絶縁REBCOコイルの上段部に局所的な常伝導転移が発生した場合の解析結果を4.2 Kと30 Kの
2ケースについて報告した。4.2 Kでは、最上段コイルクエンチ後、連鎖的クエンチが全てのコイルに発生した。一方、30 Kでは、隣接コイルの電圧、
電流には大きな変化がなかった。これは、運転温度における熱容量の差に起因するもので、 4.2 Kより30 Kの方が無絶縁コイルの特性を活かせること
を示した。
2P-p21:石崎(早大)らは、スリットを入れた後、銅メッキをしたREBCO導体の効果を確認するため、オーバーシュート法で励磁したREBCOコイルの
挙動解析を行い、スリットのない導体、スリットはあるが銅メッキがない導体の解析結果との比較を報告した。解析の結果、励磁直後はスリットの
ない導体と同様の結合電流が見られるものの、時間経過とともにスリットを入れただけの導体と同様の電流分布になることを示した。
2P-p22:上田(早大)らは、前述の発表と関連し、銅メッキの抵抗率と遮蔽電流磁場との関係を解析した結果を報告した。等価抵抗率10-6 Ωmでは、
遮蔽電流磁場低減の効果がほとんど見られなかったが、抵抗率を上げると絶縁モデルと同様の遮蔽電流磁場低減効果が見られ、適切な抵抗率の選択が
必要であることを示した。
2P-p23:緒方(早大)らは、REBCOコイルによるMRIシステムにおいて3ステップのオーバーシュート励磁を行うことにより、励磁完了後1時間で時間安定
度を1 ppm/hにできることを解析的に示すとともにそのオーバーシュート量の決定方法を紹介した。
2P-p24:武藤(フジクラ)らは、人口ピン入りREBCO線材の磁場、角度特性をフィッテングする線材特性評価式を提案し、この評価式でREBCOコイルの
特性が精度よく評価できることとともに長尺導体の特性の均一性を示した。
2P-p25:恩地(鉄道総研)らは、SMESへの応用を目指したMgB2ラザフォード導体を使用したダブルパンケーキコイルをW&R法とR&W法で製作し、通電試験
を行った結果について報告した。R&W法では線材に劣化が発生したものの、W&R法では20 K、1.6 T、600 Aの通電に成功した。
2P-p26:許(明治大)らは、ハイパーサーミア用高周波電磁石試験機設計の紹介を行った。電磁石発熱は21.1 kWになるが、水冷で対応可能なこと、電磁石
両端電圧は152 kVとなったが、補償キャパシタンスを適切に用いれば10 kV以下に低減できることを示した。




5月30日(水)
A会場

Bi系・鉄系 3A-a01-04 座長 松本 明善

「3A-a01:酒井(東北大)」からはDI-BSCCOTypeHT-NX線材の40 KでのIcの磁場-歪依存性についての報告があった。これまでの報告で77 Kや65 Kでの
測定報告はあったが、より低温での報告は少ない。より低温では可逆領域における臨界電流の低下が大きくなる挙動が見えたと報告した。
「3A-a02:田中(青学大)」からはBi2223多結晶材料における臨界電流特性改善のための粒間結合強化を行っており、今回は磁場配向によりc軸配向した高濃度
Pb厚膜試料の超伝導特性と微細組織に関する報告を行った。低温焼成によりc軸方向に対して薄い平板状になり高密度高配向組織が得られることを示した。
「3A-a03:嶋田(東北大)」からは自己焼結で作製されたBa122バルク体の微細組織観察の結果が報告された。微細組織観察の結果低温焼成では結晶粒が小さく、
その粒界には数ナノのBa-Oアモルファス層が形成されており、それを高温で熱処理すると粒界自体が大きくなると共に粒界も粗大化し、結晶粒間の結合性
が低下していることを示した。
「3A-a04:植村(東京農工大)」からは気相拡散によるBa122相の合成について報告を行った。密閉された容器内に純鉄の丸線をつり下げ、下からAs、Baの順に
気相拡散を行い、最終的にBa122相の生成に成功した事を報告した。Asの蒸気中ではFeAs及びFe2Asが生成し、その後のBaの気相拡散よりBa122相が形成
された。今後はCo添加等による超伝導化が課題になると考えられる。


MRI・シミング 3A-a05-10 座長 柳澤 吉紀

(3A-a05/06) 横山/三浦(三菱電機)らは、MRI用1/2サイズのアクティブシールド型3 T REBCOマグネットの開発状況を報告した。線材の総長は72 kmあり、メイン
コイル・シールドコイル合わせて200枚以上のシングルパンケーキを積層し、伝導冷却する。現在において最大級のREBCO磁石であると言える。コイル製作段階
での特性の良品率は約80%で、特性に不良が生じるメカニズムはまだ明らかになっていないとのことである。今後、マグネットの組み立てを実施するとのこと。
(3A-a07) 北田(京都大)らは、MRI用REBCOマグネットについて、磁場補正用微小電流電源を用いた磁場安定性向上フィードフォワード制御の効果を報告した。
(3A-a08) 中村(京大)らは、MRI用REBCOマグネットの磁場計算のために、線材断面内の電流分布を考慮した手法を報告した。
(3A-a09) 木須(九大)らは、MRIマグネット用REBCOパンケーキコイルに内在する劣化部位を、磁気顕微鏡により可視化した。これにより、素線の局所Ic低下は
周方向にある程度の距離があり、複数の巻線の層において欠陥があることがわかった。
(3A-a10) 阿部(高エネ研)らは、MRI磁石を用いた超高均一シミングの可能性検討を報告した。シム片単位の少量化が有効であるとのことである。


超電導接合/低抵抗接合(2) 3A-p01-07 座長 永石 竜起

3A-p01:武田(東大)らは、これまで直線型の接合を開発してきたが、永久電流での接合抵抗評価に必要な拝み合わせ型の接合を検討した。接合Icの向上を
目指して、1次焼成に中間一軸プレス、2次焼成を行うことで、77 KのIcは70 Aから100 Aまで向上した。これにより、4.2 K、1 TでのIcは300 Aに増加し、JSTの未来
社会創造事業で開発予定の1.3 GHz NMRに要求されるIcをクリアした。今後、永久電流での評価に向けて、DIBSCCO線材のIcを劣化させることなく、補強材と
半田を除去する技術開発が必要である。
(3A-p02, 03:講演キャンセル)
3A-p04:寺西(九大)らは、PLD法で形成した超電導接合用GdBCO前駆体である追加堆積膜の接合形成前後での微細観察を行った。接合形成前の追加堆積膜
は下地と高い密着性を有しており界面は明確でなく空隙も観察されなかった。追加堆積膜は、GdBCOがc軸配向している粒、ランダム配向している粒、非晶質
と無配向が混在している粒から形成されていた。一方、接合形成後の追加堆積膜は全てc軸配向膜に変化するが、界面に空隙が発生し、追加堆積膜は9%薄膜
化した。接合電流は77 Kで数Aと小さいが、その理由として接合界面で観察された歪層が原因ではないかと推察した。
3A-p05:戸叶(NIMS)らは、Ba-122単芯線材の超伝導接続の特性改善について報告した。接続部における圧力媒体をAgからAg-5 at%Sn合金に置き換えること
で、Icの改善(57 A @4.2 K, s.f.)を得た。また、これにより再現性の向上も図ることができた。具体的には傾斜加工した焼鈍前の線材同士をAg-5 at%Snパイプに
詰めて、圧延プレスを行った。Snを添加した理由として、122に悪影響を与えない唯一の元素であること、広い固溶域を有することが挙げられ、同合金の機械的
強度が接続部に高い圧縮応力を与え、緻密な界面を形成した結果、Icの改善が得られたと考えられる。さらに、Sn濃度を7.5at%に高めることで、最高のIc=151 A
@4.2 K, s.f.を得た。
3A-p06:小林(NIMS)らの報告は、超伝導線材の接続抵抗評価装置についての続報。接合を有する一回巻き試料に誘導コイルにより電流を誘起し、磁場減衰を
ホールセンサで計測することにより接続抵抗を評価する。装置の仕様としては、抵抗値が10-8~10-15 Ω、冷却温度が3~100 K、誘起電流が300 Aである。
冷凍機による冷却完了まで4時間、測定後の試料交換までの時間は12時間を要する。複数機関のNbTi接合線材を用い、350 Aまで永久電流を誘起させた。1つの
線材では、8.6 Kで抵抗が発生し、接続に用いた半田のTcと概ね一致した。7.5Kでは電流は減衰するものの50 A程度で横ばいとなり、永久電流として通電可能な
電流値を見積もることが可能である。測定した3試料とも7 K程度からIcの低下が観察され、最小で10-16 Ωオーダの接続抵抗の評価ができることを確認した。
3A-p07:伊藤(東北大)らは、き電や核融合炉用マグネットに適用する超音波による低抵抗接合について報告を行った。Bi-2223線材ではREBCO線材と異なり、
これまで超音波接合によりIcの低下を誘引していた。今回、線材の間にInを挟み、超音波発生ホーンと線材の間に金属材料を挟むことで、半田接合と同等あるいは
低い接合抵抗率が得られた。使用した金属はSUS316とA1050で、SUS316の方が低抵抗が得られた。また、Inを挿入することで低出力の超音波、短時間接合が
可能となった。本方法により、最小で半田接合の半分程度(15~20 nΩcm2@100 A)の接合抵抗を達成した。


MgB2(2) 3A-a08-11 座長 山本 明保

3日目午後のMgB2 (2)セッションでは4件の講演発表があった。
3A-p08: 加藤(九大)らは、IMD 法による7 芯MgB2 線材の局所均一性の向上について報告した。同グループからの前回の報告では、IMD 法によって作製された7 芯
MgB2線材においては、X 線CT と走査型ホール素子磁気顕微鏡(SHPM)による評価からバリア材と臨界電流分布の均一性に課題があることを見出していた。そこで
今回は作製プロセスを見直した7 芯MgB2 線材に対して評価を行った。作製プロセスを見直した線材では、均一性のあるフィラメントが形成されたことが確認されたほか、
長手方向の臨界電流の平均値も大きく向上した。
3A-p09: 須藤(青学大)らは、MgB4を原料に用いた高密度MgB2バルクの作製と微細組織について報告した。MgB2結晶の成長抑制を目的とし、自製のMgB4を前駆体と
して使用してPICT 拡散法により高密度MgB2バルクを作製した。PICT拡散法により作製したMgB4は熱分解法により作製したMgB4よりもMgOが少なく、高純度であった。
MgB4を出発原料としてPICT 拡散法により作製した試料ではMg組成比を制御することでJc特性が変化することを明らかにした。また、MgB4をB原料に混合したPremix-PICT
拡散法により作製した試料では、とくに磁場中でさらに高いJc特性が得られた。
3A-p10: 田中(日立)らは、高温熱処理によるMgB2線材の室温での曲げ歪耐性向上について報告した。In situ PIT 法で作製したMgB2線材(最外層にモネル、中心に銅、
バリア材に鉄を用いた線径0.67 mmの10芯線)を対象として,室温での曲げ歪み耐性の熱処理条件依存性を検討した。高温で熱処理した線材に対して異なる曲げ半径の
曲げ負荷を与えたところ、曲げ半径が65 mm以下でIcの劣化がみられた。また、Ic特性と機械特性に好適な熱処理温度が必ずしも一致するわけではないことから、熱処理
条件の調整が課題であることを指摘した。
3A-p11: 長村(応用科研)らは、複合MgB2 超電導線の機械的性質について報告した。ヤング率、熱膨張係数を考慮した複合超電導線を設計することにより機械的性質
に優れた超電導線を製造することができることから、市販されている3種類の線材に対して室温と液体窒素温度における引張試験を行った。3 種類の線材の断面構造は
かなり相違し、それに伴いヤング率、0.2%耐力はかなり異なることがわかった。さらに複合構造をもとに計算で予測したヤング率は実測した値によく一致することを報告した。




5月30日(水)
B会場

核融合(2) 3B-a01-04 座長 村上 陽之

3B-a01:柳(NIFS):次期ヘリカル型核融合実験装置へ向けた導体開発の全体概要およびSTARS導体の開発状況について報告があった。STARS導体のジャケット
溶接に用いるレーザー溶接の溶接深さおよび溶接後の検査方法について質問があった。溶接は出来るだけ深く実施したいが銅まで届くと問題になるため検査方法と
合わせ今後の開発課題であるとの回答であった。また、無絶縁巻きではプラズマとの相互作用で電流中心がずれるのではないかという質問に対し、ヘリカルでは
それほど影響は大きくないと考えているが、今後詳細に評価を進めていくとのこと。
3B-a02:三戸(NIFS):FAIR導体の概要および開発状況に関して報告があった。通電試験の結果はIcで3割程度の劣化が確認され、積層精度が良くないことでひずみ
が生じていることが原因との考察であった。長尺化において外周と内周の長さの違いによる線材長の違いが問題になるのではないかとの質問に対し、長尺化時
には積層とジャケッティングを平行して進める必要があるとの回答であった。また、摩擦撹拌接合時の温度について質問があり、劣化の始まる200℃より低い150℃
くらいとのことであった。
3B-a03:小野寺(NIFS):FAIR導体において、二次巻線を用いたクエンチ保護方式に関する報告があった。クエンチ検出自体の目途はあるのかという質問に対し、二次
巻線は導体に埋め込まれているのでキャンセリングは十分と考えているが、定量的な評価は今後の課題との回答であった。また、発生電圧125 kVの分圧に関して、
パンケーキごとに分割することで10 kV程度まで最大電圧を下げる事ができるとのことであった。
3B-a04:松永(総研大):WISE導体の概要および開発状況の報告があった。大型コイルになると内部に空隙なく金属を注入できるかという質問に対し、今後検討開発を
進めるとの回答であった。巻線時にひずみが残るのではないかという質問に対し、巻線時に揺らすことでひずみを緩和できることが紹介された。また、試験で確認された
劣化の原因について質問があり、現在解明を進めているところだが、口出し部が含侵されていないため応力集中してしまったのではないかと考えており、次の試作では
端部まで含侵する計画であるとの回答であった。


核融合(3) 3B-a05-08 座長 伊藤 悟

3B-a05 小泉(量研機構):ITER TFコイルの調達進捗を報告した。三菱重工・三菱電機・現代重工・Melco、東芝の2班で、TF コイル9機および欧州向け構造物
10機を製作している。初号機と2号機のWPの80 Kコールド試験(パッシェン試験、リーク試験)が完了し、初号機に関してはWPとコイル容器の一体化作業(WP
設置精度1 mm)も終了した。2020年1月より現地での組み立ても開始される予定である。
3B-a06 今川(核融合研):ITER TFコイルCICC接続サンプルの通電試験結果の考察をした。低電流域では電圧タップごとに電流電圧特性に違いがあるが、15 kA
以上ではその勾配は同一となる。これは、Nb3Sn素線間の接触抵抗と臨界電流に起因する。また、負の電位差を示す場合があるが、本試験でのターミナル長が
短いために一部素線に電流が移りにくく、また電圧タップが同一素線の電位を示していないことが原因と推測している。
3B-a07 村上(量研機構):JT-60SA CSの製作の進捗状況を報告した。CSの真円度の許容誤差は8 mm(製作時:4 mm、組立時:4 mm)であり、レーザートラッカー
を用いた位置調整により許容範囲に収めた。製作は2019年3月に完了しており、量研機構那珂研にて組み立ても完了した。2020年の運転開始に向け、今後、フィー
ダー、サーマルシールドの設置を行う予定である。
3B-a08 赤澤(阪大):ITERの超伝導コイルに用いられるGFRPについて、常温大気圧下でのγ線照射後の層間せん断強度の温度依存性の評価結果を報告した。
照射の有無で、液体ヘリウム温度と液体窒素温度における層間せん断強度の関係が変化しており、照射による高分子の架橋密度の低下が影響を及ぼしている
と考察した。


磁気分離(2) 3B-p01-06 座長 秋山 庸子

磁気分離(2)では6件の口頭発表が行われた。6件の発表はいずれも宇都宮大学の酒井保蔵准教授らの研究グループによるものであった。前半の4件の発表、
3B-p01:江田(宇都宮大)、3B-p02:王(宇都宮大)、3B-p03:酒井(宇都宮大)、3B-p04:直井(宇都宮大)では、これまでに宇都宮大学のグループが行ってきた
磁化活性汚泥法をさらに高度化する試みが発表され、磁気分離法のメタン発酵法への応用、接触曝気法や凝集法との組み合わせによる浄化性能の高度化、
そして食品工場でのフルスケール実証試験に関する報告であり、実用化への期待の持てる内容であった。これらの発表に関しては、特に従来の手法に対する
コストの比較や、技術的な長所に関しての議論があった。後半の2件、3B-p05:石井(宇都宮大)、3B-p06:小林(宇都宮大)は、磁場により汚泥を効率的に
乾燥させるための磁力保持脱水乾燥法による汚泥処理の検討を取り入れた研究について発表があった。これらの発表については、必要な磁場条件等に関して
議論がなされた。最後の発表3B-p06は、磁化活性汚泥法と磁気保持乾燥法を組み合わせ、システムの効率化・高性能化のみならず、リンの回収と再利用を
提案し、本手法の有用性を定量的に示していた。


磁気分離(3) 3B-p07-12 座長 酒井 保蔵

本セッションでは阪大・秋山ら、福井工大・西嶋ら、物材・岡田ら、四国総研・松浦ら、荏原工業洗浄・関根による、火力発電所ボイラー水の酸化鉄スケールの
除去に関する産官学共同プロジェクトから3件、阪大・須藤らによるエマルション解乳化の提案、阪大・小西らによる泥水中の粘土物質への重金属イオンの吸着
挙動、福井工大・三島らよる常磁性粒子の淘汰管を利用した磁気分離の提案の計6件の研究発表があった。
3B-p07~09 発電所からの温室効果ガスの排出抑制を目的としてボイラー水中の酸化鉄スケールを、2年間、捕捉し続けることができる装置を検討した。磁気
フィルターの設計、実機の1/7スケールの大規模実験の結果などが報告され議論された。当初の目標は達成され、実機適用に向けた次の段階を目指すという
ことであった。
3B-p10 磁性活性炭と磁気分離を組合せたエマルションからの油分除去法が提案された。模擬排水では油分濃度に対して適切な量の磁性活性炭を添加すれば
上乗せ排水基準以下まで油分を除去できた。
3B-p11 建設現場で発生する泥水中の重金属を磁気分離で除去すること目的として土壌中の常磁性のバーミキュライトなどの2:1型層状粘土鉱物がカドミウム
やひ素を吸着する条件を検討した。
3B-p12 淘汰管は、テーパ管を用いて高さにより流速の異なる上向流中を定常的に発生させて微粒子を粒径で選別する装置である。常磁性をもつガラス球を
淘汰管内で浮遊させることで、弱い磁気力でも磁気分離可能となった。常磁性粒子の磁気分離法として利用できる可能性がある。




5月30日(水)
C会場

HTS線材輸送特性 3C-a01-07 座長 木内 勝

本セッションでは、HTS線材及び超電導材料の輸送特性について6件の報告があった。
3C-a01:鬼塚 (九大)らは、REBCOテープ線材内の不均一性が原因で起こる電界集中の低減に有効とされるFace-to-Face Double スタック構造の電流輸送
特性の数値解析を行った。得られた結果からこのスタック構造は電界集中の抑制に有効であることを示した。
3C-a02:井出(九大)らは、リール式走査型ホール素子顕微鏡システム(RTR-SHPM)のマルチチャンネル化を行った。多チャンネル化により評価速度を従来の
12.0 m/hから64.8 m/hと高速化に成功し、さらにチャンネルを増やすことにより一層の高速化が可能であると説明した。
3C-a03:筑本(中部大)らは、3次元ホールプローブを用いてHTS線材の接続部の電流輸送特性を調べた。今回の測定では、接続部の表面の磁束分布から評価
した電流は、接続部全体に均一に乗り移るのでなく、接続端部近傍で集中的に移り変わることを報告した。
3C-a04:神田(中部大)らは、Bi2223テープ線材を用いた6層、2 m長の航空機用超電導模擬ケーブルを作製し、その特性評価を行った。本報ではケーブル側面
に取り付けたHall素子から臨界電流がヒステリシス特性となることを示し、この原因が線材内の電流路の不均一さによるものと説明した。
3C-a05:森口(名大)らは、RE系コート線材をCORC導体等の小さな径に曲げるときのIc特性劣化について調べた。実験結果に基づき、超電導層の厚さ(800 nm)
が一定で、金属基板の厚さを30 µmとした場合、3 mmの半径まで曲げてもIcが劣化しないことを示した。
3C-a06:山本 (農工大・JST-CREST)らは、超電導材料へのインフォマティクス活用を提案し、その第一報として超電導材料の電流輸送特性の予測手法の検討
について報告した。本プロジェクトの今後の進展に期待したい。


デバイス 3C-p01-05 座長 馬渡 康徳

3C-p01:山梨ら(横浜国大)は、超伝導回路の中でも消費電力が極めて小さい量子磁束パラメトロンを用いたニューラル・ネットワークとして、小規模論理ゲート
の構成を検討した。パーセプトロン型とボルツマン・マシン型の2種の論理ゲートを検討し、後者はニューロンを一斉励起することができるため、前者より早く出力
が得られることを示した。今後は実際に設計・試作するとのこと。
3C-p02:寺井ら(埼玉大)は、生体からの蛍光の時間相関分光のための光子数検出可能なイメージング検出器として、集中定数型力学インダクタンス検出器
(LEKID: Lumped Element Kinetic Inductance Detector)アレイを設計・作製した。光学 LEKID アレイを設計し、膜厚 4 nm の NbN ナノワイヤを用いた素子を
作製して、共振ピークの観測に成功したことを報告した。
3C-p03:廿日出ら(近畿大)は、ニッケルの磁歪効果による超音波ガイド波を高温超伝導 SQUID を用いて検出することにより、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
の板材を検査する技術を開発した。超音波ガイド波の磁気信号から群速度や減衰特性を評価し、現状ではガイド波が約 1.5 m も伝達すればノイズレベルまで
減衰することを報告した。今後は新しい磁歪材料を用いたガイド波の強化について検討するとのこと。
3C-p04:牧瀬ら(産総研)は、Nb 接合による百万量子ビット級の超伝導量子アニーリング・マシンの実現に向けて、フリップ・チップ・ボンディングによる超伝導接続
技術を開発した。バンプ径は 10-30 μm および高さは 5 μm で、3万個以上の直列接続されたバンプ・アレイと半田バンプを介して SQUID 回路を試作し、バンプ
・アレイの良好な抵抗特性が得られて目標とする半田バンプ密度の超伝導接続に成功したことを報告した。質疑として、大規模アニーリング・マシン開発の方向性
を問う質問もあった。
3C-p05:田中ら(名大)は、超伝導デジタル回路用冷凍機システムにおける広帯域配線からの熱流入を評価した。60K ステージから 4K ステージへの熱流入の
抑制と広帯域信号アクセスを両立するために、高温超伝導体(YSZ 基板上の YBCO 薄膜)による断熱配線技術を用いて、配線基板の冷却特性を評価し、良好な
断熱配線が実現できたことを報告した。


HTS線材交流損失 3C-p06-09 座長 東川 甲平

本セッションでは、高温超伝導線材の交流損失ついて4件の報告があった。
3C-p06:馬渡(産総研)らは、高磁場中の超伝導テープ線材の履歴損失について報告した。CORCに見られるように、テープ線材をスパイラル巻きにした
状態における交流損失を解析的に導出することに成功していた。
3C-p07:小川(新潟大)らは、磁界の波形がRE線の磁化損失特性に及ぼす影響について報告した。実験的にも数値解析でも磁界の波形の影響があること
を示し、Beanモデルでは見られないn値モデルによる影響であることを指摘した。会場からは、特にJcの電界依存性によって説明できるのではないかなど、
活発な議論があった。
3C-p08:佐々(九大)らは、垂直磁界中における積層したREBa2Cu3Oy超伝導テープの積層枚数スケーリング則を用いた交流損失予測手法について報告した。
限られた測定結果から任意の積層枚数の交流損失を精度よく推定できる様子が示されていた。理論的な解釈と適用範囲について要望のコメントがあった。
3C-p09:李(京大)らは、スパイラル状に巻いた多芯薄膜高温超伝導線材の結合時定数測定について報告した。想定よりも結合時定数が小さくなったこと
など、結果の解釈が今後の課題となっていた。